チタンでできたパンのアレ  Forever Ti-Bread Clipの話 | docketstore

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2025/12/16 17:29

オーバースペックって響きにワクワクする。

そんなことがあなたにもないだろうか?
よくよく考えてみれば、用途に対して必要なコストをかけるのが賢いということはわかっている。
それでも、必要以上の性能をもった道具には、ついついときめいてしまう。

今回ご紹介したいのもそんな「オーバースペック」なアイテムだ。
それは、どこかでみなさんも見たことがあるであろう、パンの袋を留める「アレ」。 
正式名称をバッグクロージャーというらしい。

通常のアレはプラスチック製で、パンを食べ終われば役割を終えて捨てられる運命にある。 
しかし、もしもアレが、戦闘機のエンジンや人工関節に使われるような最高グレードのチタン合金で作られていたらどうだろう。

そんな冗談のような妄想を、大真面目に現実にしてしまったモノがある。 
今回はそんな「Forever Ti-Bread Clip(フォーエバー・チタン・ブレッドクリップ)」をご紹介したい。

冗談ではなく「軍からの発注品」という事実

まず最初にお伝えしておきたいのは、この商品が我々のようなモノ好きを笑わせるために作られたジョークグッズではない、ということだ。

これを作っているのは、アメリカのCountyComm(カウンティーコム)というメーカー。
彼らは一般的な雑貨メーカーではなく、連邦政府や法執行機関、軍隊などに装備品を納入している、いわゆる「政府調達業者(CAGEコード保有企業)」である。

About CountyComm CountyComm designs, manufactures and sells select products to countycomm.com

CountyCommでは、政府や軍から発注を受けて製品を作る際、品質管理のために少し多めに製造したり、工場の都合で生産数が超過したりすることがあるらしい。
そうして発生した「余剰分(Overrun)」を、一般市場に放出してくれることがある。

つまり、このチタン製パンクリップは、「実際にどこかの米軍部隊や政府機関が、予算を使って正式に発注したもの」の余剰分ということになる。

ちなみに実際に、CountyCommのサイトでも、地元の軍からの依頼があって作られたことが紹介されているので、米軍からの依頼であったことはわかる。

ここで一つの巨大な謎が生まれる。

「一体全体、アメリカ軍が、なぜチタン製のパンクリップを必要としたのだろうか?」

メーカーの記録によると、開発のきっかけは「地元の軍事関係者からの依頼」だったという。 
依頼内容はシンプルに「チタン製のパン留め(titanium bread tie)を作ってくれ」というもの。

ただ、出来上がったこのアイテムは、 パンの袋を留めるのには、全く向いていない。

素材に使われている「グレード5のチタン合金」は、強度がとんでもなく高い。 
普通のプラスチックのクリップなら、適度にしなって袋の口を挟んでくれる。しかし、こいつは「剛性が高すぎてほとんどしならない」のだ。

パンを守るために生まれたはずの形状が、パンの袋につけようとすると、むしろパンの袋を破ってしまうこともある。
強くなりすぎてパンを危険に晒す。
この矛盾こそが、このプロダクトの愛おしいポイントである。

アメリカ軍からの注文であることを考えると、もしかするとそもそも「バッグクロージャーの形が便利そう」だっただけで、用途は違うのかもしれない。

例えば、航空宇宙分野で使用する配線タグではないか。
航空機や宇宙船の内部など、猛烈な熱や強力な溶剤がかかる場所では、普通のプラスチックや紙のタグは溶けてしまう。
そこで、耐熱性・耐腐食性に優れたグレード5チタンが必要とされたのかもしれない。
このパンクリップの形状が、配線を一時的に束ねたり識別したりするのに、偶然ちょうどよかったなんてことはないだろうか?

他にも、チタンは非磁性(磁石にくっつかない)があるから、磁気を帯びた道具は起爆スイッチを作動させるリスクがあるため厳禁な爆発物処理班の現場で使うために作られたのではないかとか。
そもそもただの予算消化と悪ノリだったのではないかとか、色々考えたところで妄想でしかない。

真実は機密の壁の向こう側だが、「パンクリップ」という名前でカモフラージュされた、何らかの「本気の任務」を帯びていた可能性がある。
そう考えるだけでワクワクしてくるなら、それだけで意味はあるだろう。

さあ、何に使おうか

では、我々はこの愛しきオーバースペックなクリップをどう使えばいいのか。

一番のおすすめは、キーホルダーにぶら下げておくことだ。 
純チタンの約4倍の強度を持つこのチタン合金製のクリップは、簡易的な「ダンボールオープナー」として非常に優秀だ。

通販で届いたダンボールのテープを、スッと切る。 
刃物ではないので持ち歩いても安心だし、鍵束につけておけば、「あれ、カッターどこいった?」と探す手間も省ける。

ただただしならずに頑丈というだけなので、剥き出しの刃物のような危険性はないし、約0.85gと1円玉(1g)よりも軽いから、普段から持ち歩いても全く気にならないだろう。

ちなみに通常のプラスチックでできたバッグ・クロージャーなら、紫外線で劣化したり、溶剤で溶けたりするため、数年〜数十年で脆くなる。
しかしながら、グレード5のチタン合金の場合は「数千年」の耐久性を誇るという。
パンが腐敗し、袋が分解し、それを所有していた人間、いやそもそも人類が滅亡した後も、その形状を保ち続ける可能性がある。

ふとした瞬間に指で触れて、その軽さと冷たさを感じながら、
「こいつは数千年先、私が死んで、文明が滅んでも、この形のまま残り続けるんだな...」と思いを馳せてもいいかもしれない。

Forever Ti-Bread Clipは、その名の通り、「永遠(Forever)」を手の中で遊ぶためのフィジェット・トイ(手遊び道具)として、これ以上のものはないと思う。

無駄を楽しめる大人たちへ

たった2cm四方の、パンクリップの形をした金属片。 

合理的かと言われれば、間違いなく非合理的だ。 
でも、その背景にある「軍事規格の無駄遣い」や「オーバースペックな素材」に物語を感じてしまう。
そして毎日持ち運ぶのに邪魔にならずに、ちょっとだけ役に立つ。

Forever Ti-Bread Clipは、そんな「無駄」を愛せる大人のための、最高の遊び道具なのだと思う。

あなたも、ポケットの中に「永遠」を忍ばせてみてはどうだろうか。