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2025/12/08 12:56

「さて、配線をどうやって隠そうか」

これは私のようなインテリアや電源を必要とするガジェットが好きな人間にとって、終わりのないテーマだった。

ごちゃつくケーブルを飲み込むためのケーブルボックス。
PREDUCTSさんのデスクの天板裏に配線関係を隠すためのメッシュトレー。 
コードを覆うことでケーブルそのものを隠すスリーブ。

自分自身気になるものがあれば購入したり、実物を見に行ってみたり。自分のお店でもそういった「隠すための道具」をたくさん扱ってきたし、なんなら、クラウドファンディングまでして作ってきた。

視界からノイズを消し去るために、捻れたりしてごちゃごちゃっとしがちな配線をせっせと隠してきた。 それは間違いなく、部屋をスッキリさせるための一つの方法だ。

けれど、心のどこかで引っかかっていたことがあるのも事実だ。 
「隠す」ということは、そこに「見せたくないものがある」という事実の裏返しでもある。 
もっと言えば、生活に必要なインフラを「邪魔者」扱いしているような、そんな罪悪感にも似た感覚がずっとあった。

しかし、そんな「隠す」ことへの呪縛から、ついに私を解き放ってくれる道具が現れた。
今回はそんな、東大阪市で50年以上電線を作り続けてきた「大原電線」が作った、延長コードの話をしたい。

「隠す」から「魅せる」へ。実用ど真ん中の美しさ

大原電線さんの延長コードは、一見すると、工事現場で見かけるような、プロ仕様の無骨な道具に見えるかもしれない。
けれど、実物を手に取ってみると、そこには工業製品としての「実直さ」と、プロダクトとしての洗練された「美しさ」が共存していることに気づかされる。

一般的な電源タップは、プラスチックの筐体にケーブルが繋がっている構造だ。 しかし、この製品は違う。 電極と本体が「一体成形」で作られていて、まるで最初から一つの生き物だったかのような、継ぎ目のない滑らかなフォルムをしている。

ケーブル自体も、プロの現場で使われる高品質なVCTケーブルを採用していて、しなやかで、かつタフ。
持った瞬間に伝わると思うのだが、ケーブルを持つと「しっとり」とした高級感を感じてもらえると思う。
延長コードを手にしただけで、にこりとしてしまうなんて、これまでになかったけれど、それくらいモノとしての満足度が高い。

単一の素材で作られたこの「継ぎ目のなさ」と「素材の良さ」が、単なる電源タップを、部屋のアクセントになるインテリアへと昇華させている。

隠すための箱に入れる必要なんてない。
そんな私の感覚を裏付けるように、延長コードのパッケージも贈答品のようなボックスに入っている。
そう。これは むしろ、誰かに見せたくなるぐらいの素晴らしいなにかなのだ。
そこには「電源周りを美しく整えるための新しい正解」があった。

東大阪の町工場が賭けた、起死回生の勝負

実はこの製品、ただ見た目が良いだけの延長コードではない。 
その背景には、日本のものづくりが直面している危機と、そこから立ち上がろうとする町工場の意志があった。

延長コードを手掛けている大原電線さんは東大阪の工場さんだ。
かつて電線の町として知られた東大阪だが、近年は安価な海外製品に押され、多くの工場が姿を消していったという。
大原電線さんも、下請け仕事だけでは先細りしていく未来に、強い危機感を抱いていた。

HIGASHIOSAKA FACTORies HIGASHIOSAKA FACTORies(東大阪ファクトリーズ)は、東大阪の多彩な技術や創意に富んだモノづくりの魅力を ho-factories.com

そんな中で「東大阪ファクトリーズ」というプロジェクトに参加し、デザイナーさんの協力ももらいながら、自社の高品質な電線を活かした家庭用製品の開発に乗り出した。

しかし、そこで大きな壁が立ちはだかる。 
大原電線さんは「電線を作るプロ」だが、コンセントの差し込み口などの「プラスチック部分を作る(射出成形)」技術は持っていなかったのだ。

協力してくれる工場を探し回ったものの、理想的なパートナーは見つからない。 
そこで彼らが下した決断は、「自分たちで機械を買って、自分たちで作る」というものだった。

一見シンプルで、昔からあったように自然な形をした延長コード。
しかしながら、これまで扱ってこなかった射出成形機を、補助金を活用して自社導入するという大原電線さんの大きなチャレンジなくしては、生まれなかったアイテムだと言える。

延長コードの新しいスタンダード

自分たちの技術を信じ、足りないものはリスクを負ってでも手に入れる。
そんなものづくりの執念のようなものが、この一本のコードには詰まっている。

2024年のグッドデザイン・ベスト100にも選出されたこの製品だが、大原電線さんにとってはこれがゴールではないそうだ。
これは「大原ブランド」として、自社製品を世に送り出していくための、最初の狼煙(のろし)に過ぎない。

次世代にバトンを渡す時、誇れるブランドでありたい。
ただでさえいいものなのに、そんな大原電線さんたちの熱い想いを知ってしまったら、もう応援せずにはいられない。

電源周りをスッキリさせるための手段はたくさんある。
もちろんボックスで隠すのもいい。
保護チューブで覆うのもいい。

でも、もしあなたがもし隠さないを求めているなら。 
作り手の顔が見え、その覚悟が伝わってくるこの延長コードを、部屋のインフラとして迎えてみてはいかがだろうか。
ぜひ一つの選択肢として、延長コードを探している時に思い出してもらえれば嬉しい。

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