『目立たない』こともデザイン。引き算の美学を突き詰めた直径4.5mmのマグネット | docketstore

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2019/12/30 15:24

「山下くんって人の心に土足で踏み込んでいくような接客をするねー」

ある日上司からそんな言葉をもらった。

それは特に叱られているというよりは、雑談の中で単純に感想を伝えられるような形で放たれた言葉だったけれど。
もちろん胸に刺さった。

不器用な私は常にフルスロットル。

白か黒
0か100
無表情か笑顔

要するに加減が致命的にできない人間だ。

「お客様に声をかけなさい」と言われれば、ひたすらベッドを見てるお客様に寝てみることをおすすめする。
「かごを渡しなさい」と言われればひたすらにかごをおすすめしてしまう。

「いい加減」にやりなさいと言われても、目標地点がないと走れない。
月を目指せ!とか、日本一売れ!とか、明確なビジョンがないとうまく動けないのだ。

そんな私が、もやもやとしながらも接客業を続ける中でようやく手に入れたビジョンがある。
それは『孫の手』だ。

無論お客様に背後から近づいて背中を掻いてあげるわけではない。
お客様の様子を失礼のない程度に観察し、商品の説明書きに目を通す表情を伺い、店員をキョロキョロと探しはじめるその瞬間にお声がけをする。

普段は必要ないけれど、背中がかゆい時に人間の能力を拡張してくれる『孫の手』のようなサービスをしようと心に決めて、接客を行ってきた。

副作用としてお客様に高額な商品を売る!といった瞬発力は失ったけれど、不要なものをうりつけない店員という形での信頼は得られていたように思う。

だから、そういう気配りの利いた道具に出会うと、なんだか同じ職種の凄腕な先輩に出会ったような感動を覚えることがある。
SOGU φ4.5 MAGNETは私にとって、まさにそんな道具だった。

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SOGU φ4.5 MAGNETはとても小さな小さな磁石だ。

磁石部分の直径は4.5ミリメートルしかない。
その大きさがどれくらいかというと・・・

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5円玉の穴に入るぐらいだ。
なにかの冗談かのように小さい。

ちなみに50円玉の穴には入らない。
5円玉の穴は直径5ミリメートルあるが、50円玉の直径は4ミリメートルしかないのだ。
というかそんな情報、この道具と出会わなければ調べることもなかっただろう・・・。

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写真のように、ホワイトボードや金属製のトビラにハガキやポスターといった掲示物を貼り付けるためにできている。

たぶん、マグネットの説明をしていなければ気づかないぐらいに小さく、目立たずにφ4.5 MAGNETは仕事をしている。

しかし、それこそがこの道具の狙い。
必要以上に主張しない。
大では兼ねられない、小の強みを最大限に発揮している。

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例えば、ショップカードのような小さいものを貼って飾ろうとした時。

よく会社のオフィスにある色付きのマグネットで貼り付けたら、マグネットの方が目立ってしまう・・・というか、マグネットが大きすぎてそもそもそんなことしないだろう。

上の写真で使っているグリーンのマグネットはホワイトボードカレンダー用の小さな部類のものだけど、それと比べても明らかにφ4.5 MAGNETは小さい。

直径4.5ミリメートル。厚み2ミリメートルのネオジム磁石はA4のコピー用紙を2〜3枚保持できるぐらいの力を持っている。
ネオジム磁石は強力なため、小さくても強い磁力を有するため、φ4.5 MAGNETの実現のために活躍している。

でもネオジム磁石は強力なので、単体だけで使用しようとすると、掴みにくくて貼付け面から取り外すことに苦労する。

その欠点を解決したのがドーナツ型のネオジム磁石に突き刺すように固定された「ネジ」だ。

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ネジの軸の部分のギザギザがほどよい摩擦を生み出して、非常に握りやすい。
直径1.6ミリメートル高さ5ミリメートルのハンドル部分は、数字だけ聞くと頼りなく聞こえるが、十分な役割を果たしている。

このマグネットもネジも、ただ小さなサイズをあてはめて作ったのではないというから、製作者の三宅さんのこだわりは相変わらず恐ろしい。

直径6mm 厚み2mmや、直径5mm 厚み3mmといった近い大きさのマグネット。
ネジに至っても1mm単位で長さの違うものを手の大きさの違う男性と女性で試しつくし、かつ掲示物の文字やグラフィックを妨げないものを選定している。

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更にはハンドル部分のネジとマグネットの色が変わらないようにと、ステンレスの色に近いニッケルメッキで仕上げて、視覚上のノイズになりうる要素を消すというこだわりっぷり。

マグネットは小さいけれど、そこにかけられている労力は半端ではない。

おまけに購入して箱を開けた際に気づいたのだけど、パッケージへのこだわりまで恐ろしい。

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このパッケージの左上に実物が見えているパッケージ。
なににマグネットを貼り付けてるのかなー?っと横から覗いてみると・・・

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テープで貼り付けられたφ4.5 MAGNETに固定されている!

正直「ミニマル」すぎる仕掛けに驚いてしまう。
仕掛けを作った三宅さんがニコニコと笑っている様子ばかりが脳裏に浮かぶ。

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小さすぎるが故に、小さいお子様がいるご家庭では使いにくいかもしれない。

けど、この小さなマグネットはおおいに使い手の美意識を挑発してくれる道具だと感じられる。
使う側の背筋を正してくれる大人のマグネットなのだ。

このマグネットを使って飾りたいものを想像しながら生活するのもとても楽しい。

ぜひデザイナーさん以外にも試してみてほしい道具です。